妊娠したが出産が怖すぎた日々の話

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

 

私はそれまで、自分の意思で何かを決めたことはなかったように思う。

高校受験、大学受験、就職、結婚に至ってまで全て「なんとなく」「相手に言われたから」「なんか面白そうだったから」という、超ゆるゆるふわっとな感じで決めてきた。

誰かが褒めてくれそう、叩かれることはないだろう、相手の気持ちを忖度して、決めてきた。自分以外の他人がひいたレールとトロッコに乗っかってダラ~ンと過ごしてきたのである。自分の気持ちや頭を使うということが全くのゼロだった。だって全ては「相手が私のことをよく思ってくれるかどうか」であって、「自分が何をしたいのか」なんて考えがあることすら知らなかった。誰も教えてくれなかった。愚かだった。

 

さて、そんな私が第一子を妊娠した。

妊娠するイコール噂に聞きにし超痛いという噂の陣痛がくる!私はその恐怖で戦々恐々と過ごしていた。出産した友人たちからは

 

「大丈夫大丈夫!なんとかなるからさ!」と根性論だけで励まされた。本やインターネットで出産体験記なんかを読んでさらに恐怖は増してゆく。

 

なんとかその痛みから逃れられる方法はないだろうか・・・。

インターネットの広い海を渡り歩く。

 

謎のサプリメントやお茶、お灸に体操、会陰マッサージ、ソフロロジー・・・。どれがいいんだ?どれが正解なんだ?今の自分に何ができるんだ?もういっそのこと帝王切開にしてくれないだろうか。術後に痛いのは分かっているが、陣痛という未知の体験より傷跡のほうが耐えられそう!医師に相談してみようか、出産は帝王切開でって・・・。

 

そんなある日、インターネットで希望の光を見つけることができた。無痛分娩である。

ネットの体験記でも、全く痛くない、もしくは少しの痛みはあるが全然耐えられる。出産のときも旦那と笑いながら産むことができた、産後の回復も早い。

 

これだ

これしかない!

しかも幸いなことに通っている病院でできる。費用もプラス6万円というのだから、無痛分娩としては安いほうだろう。

 

しかしデメリットもある。麻酔なのでまぁ色々ありますよ、とのことだ。

 

私は夫に相談することにした。無痛分娩にしたいんだけど、と。

夫はいった。

 

「デメリットもある以上、自然で産む方がいい。それにお金の無駄だ」

 

姑も何か言いたげにこちらを見ている。

 

今までの私なら「じゃあやめときます」と言っただろう。普通分娩の方向に無理やり思考を切り替え、この件について考えることはなかっただろう。

しかし今回は違った。その後も私は悩み続けたのだ。

旦那は反対だった。おそらく姑も反対だろう。彼らに何と言われるか分からないし、これがきっかけでもめるかもしれない・・・。でも私は陣痛が怖い!

 

1カ月は悩んだだろう。毎日毎日、朝から晩まで気が付けば無痛か自然かと考えていた。

そんなある時、ふっと思いついた

 

「出産するのは私。」

 

そうだ、そうだった。出産するのは私だった。旦那でも姑でも友達でもない。私が納得のいく方法で産めばいい。お金も自分で支払えばいい。ただそれだけじゃないか。

目からうろこが剥がれ落ちた。

 

私は30歳にして自分のことを自分一人で決めた。人から見れば大したことじゃない、つまらない小さなこだ。でも私には大きな一歩だった。もう7年も前なのに鮮明に記憶に残っている。

 

自分で決めるって大変だけど心からスッキリすることだったんだ。どんな結果になっても全て自分の責任だけど、うまくいってもいかなくても、全て納得できる。